さちこのどんぐり
そんな彼と出会う少し前だった。

その冬、
駅前に初めてクリスマスツリーが飾られた日に
私は「さちこ」と出会った。


人間の「笑顔」が大好きで、
ただ、それを見たくて…

健気に生きた白くて小さなノラネコ

今でも私は「さちこ」からの贈り物を大切にしている。





「お土産は『元町中華街の豚まん』を買ってってあげるから、待っててね」

和也との電話を切って、懐かしい草の匂いがする空気を吸った。

その年の夏も暑かった。
この地域特有の地形からくる蒸し暑さ。



いま私が向かっている場所では
夏の夜、川で「灯籠流し」がある。

いつもは淡い光の列がゆっくり川下に流れていくのを、私は眺めるだけだったけど、

その年、私は灯籠に「さちこ」と書いて川に浮かべた。

< 2 / 163 >

この作品をシェア

pagetop