さちこのどんぐり
◆お疲れ様でした
山下が飼っていた白いネコは
東京郊外に近い関東の地方都市で、
自動車整備工場を経営する50歳代の夫婦に引き取られていた。

2人の子供が独立した後は
外壁や屋根の鉄板に赤錆が目立つ修理工場の隣にある築30年の木造住宅で夫婦二人で生活していた。

敷地は広いが、たくさんの車が置かれてあって、
そのため道路から奥に入った自宅の玄関は表通りからは隠れてしまっている。

夫婦がこの家を建てたばかりの頃、周囲は田畑ばかりだったのに
近くに幹線道路ができ、それを中心に公共施設や商業施設が一気に増えて、
今ではその周辺にはアパートや住宅が建ち並び、景色はすっかり変わっていた。

夫の金子雄二は短く刈り上げられた頭に薄い眉毛と一重の目。体はさほど大きくないのに変な威圧感を相手に与えてしまうくらい無口で無愛想だが、真面目な仕事人間だった。

妻の芳江は中肉中背の普通のおばさんだが、愛想がよく、人当たりの良いタイプ

その芳江が山下にとっては従姉妹にあたるため
「ネコを引き取ってほしい」という依頼が山下からあった。



二人の子供たちが独立してしまった後
夫婦だけの生活も「ちょっと寂しいかな…」
と考えていた二人は、そのネコを飼うことを即決し、
山下の頼みを快く引き受けた。

生まれてすぐに人に飼われていたためか、
その白いネコは、この夫婦にもすぐに懐いた。

夫婦は
「ネコを飼うことにして本当に良かった」と心から感じていた。
< 48 / 163 >

この作品をシェア

pagetop