さちこのどんぐり
木村耕一が「寮長」を勤める社員寮の周辺では
最近、カラスの被害が問題になっていた。

その寮の入り口にも3~4羽くらい、常にカラスがいた。

ゴミ置き場は無茶苦茶に荒らすし
フンは落としてくし…

しかし、
カラスというのは近くでみると、その鋭いクチバシや漆黒の体には
震えるほどの威圧感があり、
怖くて誰も追い払おうとしなかった。

「寮長、入口のカラスをなんとかしてください」


寮の入居者たちからの依頼に対し

「無茶言うな。俺も怖い。」

寮長の木村は心のなかで言った。



確かに木村も、そんなカラスたちを苦々しく思っていたが
何かして反撃でもされたら…

木村は決して体格の良いほうではない。
すっかり薄くなった頭に胴長短足、普通のオッサンだ。

昼間でも帽子がないと寒く感じるなか
寮の入口外側にある防犯カメラの調整作業をしながら
木村はぼんやり考えていた。

今日も木村がいる場所から3メートルほど先には
カラスが2羽、我が物顔で羽を休めている。



しかし突然

カァーカァー

2羽のカラスが、そこから飛び立っていった。
追い払ったのは1匹の白いネコ。

「おお!」

木村は思った。

「こ…これは…
黒いカラスに相対する「白い」ネコ…
あれは神が俺に送ったメッセージではなかったのか!」

…などと変なスイッチが入ってしまい…



「ワシが奴らを一掃する!」




カラスに対して
ついに、木村寮長が立ち上がった。


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