さちこのどんぐり
◆そこ手摺気をつけて

~出会い


「大丈夫!先生も、ちゃんと見えるようになるって言ってくれてるし…」
そんな母親の言葉に

「うん…」

それしか返事ができなかった。



坂崎香奈には、今でも自分に起きている事がまだ信じられない。

病院のベッドのうえ、左から光と暖かさが感じられるから
きっとそっちに窓があるんだろう。

心配そうで、涙声みたいな母親の声は右側から聞こえる。

頭の中で今、自分がいる病室の間取りと母と自分の位置を描いてみた。

そして「どうして…こんなふうになっちゃったんだろう…
いやだ!いやだ!怖い!誰か私を助けて!」

心のなかで、ずっと悲鳴をあげていた。


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