強引社長の甘い罠

ほどけた感情の糸

 目を覚ますと辺りは暗かった。しばらく目を凝らしてみるとカーテンは閉められているようだ。窓とは対面した壁にひとつだけあるドアはほんの数センチ開いていて、そこから光が漏れている。夜だということは分かった。あれからいったいどれくらい眠ってしまったのか想像はつかないけれど。

 お腹が鳴った。そういえば、朝からほとんど何も食べていない。お昼は薬を飲むためにと、祥吾に無理やりゼリーを食べさせられた。口にしたのはそれだけだ。
 我ながら自分の回復力に驚く。今朝はあんなに熱が高くて食欲もなく、少し動くだけでつらかったのに、今はお腹を空かせているだなんて。まだ少し喉は痛いけれど、頭痛はすっかり治っていた。これなら明日はちゃんと出勤できそうだ。

 お尻を引きずってベッドから這い出る。明かりが漏れるドアへ近づいた。ドアの外を覗くと明かりの元はそこではなかった。広めの廊下があり、そのすぐ先に、磨りガラスがはめ込まれた別のドアある。光はそこから届いたものだった。

 私は廊下に出ると、ドアをそっと開けてみた。その部屋はカウンターキッチンがついた、リビングダイニングだった。全部合わせて三十畳くらい? カウンターの向こうのキッチンも入れたらもう少し広いのかもしれない。
 この部屋も寝室と同じような色調でまとめられている。ダークブラウンのカーテンは閉められていて、部屋の真ん中にコの字型の大きな茶色い革張りのソファがあった。その真ん中にガラスのテーブルがある。

 祥吾はそこにいた。前屈みになってソファに座っている。両膝の上に腕を置き、手にした何か――紙切れのようなもの――をジッと見つめていた。
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