強引社長の甘い罠
「先日もお話したとおりです。僕はあなたに相応しくない。いずれアメリカに戻るつもりですし、佐伯不動産の一人娘であるあなたには責任もいろいろあるでしょう。あなたには僕じゃなく、もっと相応しい人がいるはずです」

「祥吾以外に相応しい人なんているはずがないわ。それに、会社のことは何とでもできる。まだ父は元気だし、いずれは拠点を移してもいい。祥吾にとっても佐伯不動産は魅力的なはずよ。こんな話を断るなんて馬鹿げていると思わない?」

 彼女が心底信じられないといった面持ちで続けた。

「会社のことは別にしても、私たちは結婚するべきよ。私があなたのことが好きだってこと、知らないなんて言わないわよね? 父があなたとの食事に毎回私を同席させてたのだって、そういう理由からだって分かっていたでしょう? 私は祥吾と結婚したいのよ。他の誰かと結婚するなんて考えられないわ」

 その時、ドアをノックする音がして秘書が一人入ってきた。彼女がコーヒーを並べて去っていくと、幸子さんが噛み付くようにもう一度言った。

「私たちは結婚するべきよ」

「幸子さん……」

 俺はまた苦笑した。分かっていたことだが、彼女は俺と結婚したいらしい。もちろん、幸子さんが俺に好意を抱いているのは知っていた。佐伯氏が食事会に毎回彼女を連れてくる理由も察していた。俺は分かっていて曖昧な態度を取っていたのだ。佐伯氏とのビジネスを円滑にするために。そして、唯への復讐のシナリオに幸子さんの俺に対する好意を利用した。
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