強引社長の甘い罠
 旅行の話を聞いてから、この日をとても楽しみにしていた。だけど今朝からの緊張は増すばかり。だって今日は、日常から離れた場所で祥吾と一泊するのだ。ドキドキしない方がおかしい。

 祥吾と一緒に眠るのはこれが初めてではない。こうしてまた彼と過ごすようになってから、私は数回、祥吾のマンションの、彼のベッドで、彼と一緒に朝を迎えている。だけどその間、彼とはずっとキス止まりだ。いい雰囲気になったことは何度もある。抱きしめられて、その先を予感したこともある。けれどその度に電話が入ったり、あるいは祥吾が何かを考え込んでしまったりして、結局私たちは復縁してからまだ一度も肌を重ねていない。

 私たちはお互いを知らないわけじゃない。その昔、祥吾と交際していたときはそれこそ何度も彼に抱かれた。だけどこうして何年も経ってから再び彼と向き合うと、まるで初めてのような気分になる。きっとそう感じているのは私だけじゃないはず。だって祥吾も、私に触れるときの手つきがとても慎重で、ためらいがちだから。

 祥吾が忙しいさなかにこうして旅行に誘ってくれたのは、彼にとっても何か意味があるんじゃないかと思っている。聡から過去の真実を聞かされて、思うところがあったのかもしれない。

 あの夜以降の祥吾が私に見せる笑顔はとても優しい。もちろん、それまでだってずっと彼の愛情は感じていたけれど、何かが彼の中で変わったように思う。それが何かは分からないけれど、とにかく彼の私に対する態度、表情は柔らかくなったし、彼の雰囲気も穏やかになった気がする。
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