強引社長の甘い罠
 鈴木課長が秘密めいた瞳で笑った。

「スタッフが女性ばかりっていうのは最初から分かってたけど、カメラマンについては桐原社長の手配なのよ。七海さんがリラックスして撮影に臨めたのは桐原社長のおかげかもしれないわね」

「え……」

「七海さんがモデルをすることに関して、最初は反対した社長も分かってくれたみたいね。七海さんの心理を理解してカメラマンを手配してくれるなんて、さすがだわ」

 呆然とする私に、鈴木課長は優しい微笑みを残して自分のデスクへと戻っていった。
 それからしばらく、私は祥吾のことばかり考えていた。



 午後六時半。仕事を終えた私は、会社を出た途端むっとした都会の熱気に包まれた。八月の夕方はまだすこぶる暑い。一匹のセミが飛んできてビルのコンクリートの壁にとまると、うるさく鳴き始めた。その様子を目を細めてしばらく眺める。祥吾と再会してから二ヶ月が経っていた。

 先週末、旅行に出掛けた私たちは、昔のように笑い、昔のように触れ合い、昔のようにお互いを思いやった。彼はとても優しく愛情に満ちていて、そして情熱的だった。私は彼が差し出してくれた優しさに素直に甘えた。

 そして月曜日の朝、祥吾のベッドで目覚めた私は、彼の寝室のクローゼットの中に私のための洋服が数着用意されていたのを見たときは驚いた。会社へ着ていける涼しげなスーツや普段着以外にも、大胆なデザインの総レースの下着を見つけたときは思わず顔をしかめてしまった。いったい彼はどんな顔をしてあれを買ったの?
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