強引社長の甘い罠
 祥吾は契約している会社近くの地下駐車場で私を降ろすと、自分は電話をかけるからと言って、私を先に会社へ行かせた。それについて私は何も不満じゃない。むしろ、こんな会社の近くまで私と一緒に来て大丈夫だったのかと心配したくらいだ。祥吾と私の関係は公にされていないのだから。
 そしてそれ以降、彼とは連絡が取れなくなった。

 肩にかけたバッグからスマホを取り出す。私は大きな溜息をついた。留守電にメッセージも残したし、メールもした。けれどいまだ、祥吾からの連絡はない。

 何かがあったのだ。旅行から帰った日、彼の携帯にかかってきた国際電話のせいに違いない。あのとき彼は心配することはないと言ったけれど、もし本当にそうなら、わざわざそんなことを私に言い聞かせる必要はないはずだ。何か大きなトラブルがあったのだ。そうでなければこうして連絡が取れなくなるなんてことはないはず。

 嫌な胸騒ぎを感じる。別に私がそうした直感に恵まれているわけではない。ただ、不安だった。再び彼と心を一つにできたと実感した途端、彼と連絡が取れなくなったことは、私の心を大いに乱していた。

* * *

 祥吾と連絡が取れなくなって二週間が過ぎてしまった。
 社内メールで夏期休暇の日程を提出していない人は早く出すようにと催促が来てしまい、私は渋々、九月の適当な日を三日間、連休で取ることにした。本当は祥吾の休暇に合わせたくて保留にしていたのだけれど、どうやらそれは叶いそうもない。
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