強引社長の甘い罠
 祥吾の行動は私の理解を超えている。こんなに仰々しくボディーガードをつけて私を監視させてまで、彼は私を自分から遠ざけたいのだろうか。私が祥吾に連絡を取ろうとしつこくしたせいでこんなことをしているのだとしたら、私はもっと反抗するべきだと思う。大きな不満を抱きつつもこうして大人しく従っている理由が見当たらない。

 オレンジジュースを一口飲んだ。甘くてコクがあるその味に感動しつつも、私はまた泣きそうになってしまった。

 祥吾の理不尽な命令に従う理由が見当たらないなんて本当は嘘。私はどんな形であれ、祥吾と繋がっていたいと思っている。彼がこうして私に横暴な要求をしても、私がそれを受け入れさえすれば、彼と食事も出来るし話もできる。こうして同じ場所で夜を明かすことだって出来るのだ。

 テーブルの上に置いてあった私のスマホが鳴った。浜本さんの視線がチラリと動く。そんな彼女のことは無視して電話を手にした私は今日初めて微笑んだ。

「もしもし、良平?」

 立ち上がりテラスの端まで歩いていく。平日の都会の曇り空を眺めながら電話に出た。

『なんだ、元気そうじゃないか』

 元気じゃなかったのが意外だったような良平の口ぶりだ。私はテラスの手すりに片手をかけながら唇を尖らせる。
 曇っているとはいえ素晴らしい眺望だ。忙しなく動く下の世界は、ゆったりとしたこことはまるで別の時間が流れているような気がしてくる。高所恐怖症じゃなくてよかった。
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