強引社長の甘い罠
「元気で悪かったわね。あいにく私は大抵の日は元気なの。それよりこんな時間に電話してくるなんてどうしたの?」

『悪いなんて言ってないだろ。俺、さっき唯の会社に寄ったんだよ。そしたら唯は今日休みだって聞いたから、また風邪でも引いてるのかと思って心配しただけだよ』

「そうだったんだ。ごめん」

『いや、いいけどさ……。どっか旅行でも行ってるのか?』

「あー……、ううん、違う。そうじゃないんだけど……」

 言いよどんだ私に良平がすかさずつっこんだ。

『そうじゃないけど、なんだよ。もしかして何か困ってるのか?』

 私は目をぱちぱちさせた。困っている。そう、確かに私は困っているのだ。

「まさにそうよ。困って途方に暮れてるわ」

 くるりと体を翻し、今度は手すりに背を預けた。テラスから見る部屋の眺めもこんなに素晴らしいとは気づかなかった。磨かれたガラス越しに見えるリビングの高価な調度品は、まるで一枚の絵画のように美しい。新しい発見だ。
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