強引社長の甘い罠
 まだ震える腕を祥吾の背中に回した。彼のグレーのシャツは汗でびっしょりと濡れていた。ぴったりと肌に張り付いたシャツは、彼の感触をダイレクトに伝える。激しく上下する胸も、鼓動も。そして私の頭のてっぺんに顔を埋める彼の、繰り返される荒い呼吸も感じた。

「……祥吾、いったいどうして」

「ハイ、ショーゴ」

 私がやっとのことで声を出したとき、背後から声がした。彼の体が一瞬で硬くなったのがわかった。

「……ルーク」

 祥吾は抱きしめていた私を離すとすぐさま私の腕を掴み、背中に押しやった。ルーク? 祥吾の正面にはメイソンさんが立っている。私は祥吾の背中から顔だけ出してメイソンさんを見つめた。まるで祥吾は彼から私を隠しているみたい。二人は知り合いなの?

 メイソンさんは穏やかな笑みを浮かべているけれど、祥吾の背中が緊張に満ちているのがわかる。今にも彼に飛び掛りそうだ。

「祥吾、どうしたの……?」

 彼の汗に濡れたシャツを引っ張ってみた。彼は私の腕を掴んでいた手を離すと右手で私を抱き寄せ頭のてっぺんにキスをした。

「無事でよかった」

 そう言った祥吾は、そこでやっと体の力を抜いたようだ。長い息を吐き出し、汗で張り付いた髪を乱暴にかき上げる。そんな仕草ひとつがとてもセクシーだから困ってしまう。
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