強引社長の甘い罠
「七海さん」
マイクを通して私の名前が聞こえた。つられて顔を上げる。
フロアの前方に設置された簡易的なスピーチ台の上に乗った祥吾が、愛情の滲んだ青い瞳で私をまっすぐ見つめていた。彼はもう一度、今度はマイクを通さずに言った。
「おいで、唯」
え……何が、どうなっているの?
一拍おいてから周りを見渡せば、私は四百余名の社員の視線を一斉に浴びていた。皆、私を見てニヤニヤしたり、驚きの表情を浮かべている。
「ほら、行きなさいったら」
及川さんがもう一度私の肩を押した。そのまま私がもう一歩進むと、前に並んでいた大勢の社員が左右に割れ、祥吾までの道筋が出来た。私は誘われるようにゆっくり歩くと祥吾の前にやって来た。
祥吾が手を差し出して私は彼の手を取る。彼の大きな手が私を壇上に力強く引っ張り上げた。
急に慣れない注目を浴びて、状況がわからない私は不安になっておろおろするばかり。だけど祥吾が、隣に立つ私を見下ろして微笑んでくれた。そしてもう一度、私の手を力強く握り締める。そうしてから彼は手を離した。
大丈夫だと言われた気がした。俺を信用しろと言われた気がした。祥吾に任せておけば何も心配はない。そんな安心感があった。
祥吾がマイクを握った右手を口元まで持ち上げた。
「今日は、社員の皆さんに報告とお願いがあります」
マイクを通して私の名前が聞こえた。つられて顔を上げる。
フロアの前方に設置された簡易的なスピーチ台の上に乗った祥吾が、愛情の滲んだ青い瞳で私をまっすぐ見つめていた。彼はもう一度、今度はマイクを通さずに言った。
「おいで、唯」
え……何が、どうなっているの?
一拍おいてから周りを見渡せば、私は四百余名の社員の視線を一斉に浴びていた。皆、私を見てニヤニヤしたり、驚きの表情を浮かべている。
「ほら、行きなさいったら」
及川さんがもう一度私の肩を押した。そのまま私がもう一歩進むと、前に並んでいた大勢の社員が左右に割れ、祥吾までの道筋が出来た。私は誘われるようにゆっくり歩くと祥吾の前にやって来た。
祥吾が手を差し出して私は彼の手を取る。彼の大きな手が私を壇上に力強く引っ張り上げた。
急に慣れない注目を浴びて、状況がわからない私は不安になっておろおろするばかり。だけど祥吾が、隣に立つ私を見下ろして微笑んでくれた。そしてもう一度、私の手を力強く握り締める。そうしてから彼は手を離した。
大丈夫だと言われた気がした。俺を信用しろと言われた気がした。祥吾に任せておけば何も心配はない。そんな安心感があった。
祥吾がマイクを握った右手を口元まで持ち上げた。
「今日は、社員の皆さんに報告とお願いがあります」