強引社長の甘い罠

情熱のキスに潜む嘘

 いったん自分のデスクに戻り、メールチェックを済ませた私は、席を立つとフロアを後にした。重い足取りでエレベーターに乗り込む。

 社長室は二十七階だ。途中、誰も乗り込んでくることもなく、私は目的の階に到着した。
 二十七階には社長室とプレートが掲げられた部屋が二つある。だが、どちらが祥吾の部屋なのかはすぐに分かった。

 それぞれのプレートの下に、名前が入った小さなプレートもあったからだ。
 私は“桐原”と書かれたプレートが付いている方のドアをノックした。

「どうぞ」

 すぐに返事が返ってきたので「失礼します」と一声掛けてからドアを開ける。
 入社して五年。初めて足を踏み入れた社長室は、想像していたよりも普通の部屋だった。

 広さ的には十畳くらい。ドアを開けて真正面に応接セット。片側の壁にはまだ隙間だらけの本棚がある。その奥には重厚なデスクが袖机と共に並べて置かれ、その背後にブラインドが上げられたままの腰高窓が見えた。片隅には観葉植物が一つ、置かれている。

 祥吾はデスクを背に窓のほうを向いて立ち、外を眺めていた。 
 背の高い彼が立つとその窓は小さく見える。彼がこちらを振り返ったとき、その黒曜石を思わせる黒い髪がさらりと揺れた。
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