オオカミくんと秘密のキス
「トイレじゃないですか?」


タラコちゃんとメガネちゃんが首を傾げる。




「さっきあっちの方に行ったの見たけど…」


班の男子の1人が、バーベキュー広場の先にある売店の方を指差した。



またサボリ?

よくチョロチョロする人だな…




「全員いるかー?リーダーは点呼を取れ~いない者は呼んでこいよー」


先生の言葉を聞いて、私達のグループはみんなで目を見合わせる。




「呼んでくるって誰が…?誰が尾神くんを呼んでくるの?」


タラコちゃんがそう聞くと、全員私の方をじっと見てきた。




「あ、私!!?」


なんで私!!?



「さっき尾神くんと話してましたし!」

「ジュース買ってもらってたし!」

「野菜のゴミ捨ててたし!」

「名前呼ばれてたじゃん!」


グループのみんなが私に顔をぐっと近づけて、グイグイと押すように言葉を発した。



う…

でもそれは尾神くんが勝手にやってたことでしょ?


だけど仕方ないかぁ…

班の中だったら私が行くべきなのかな。みんな尾神くんのこと怖いんだもんね…




「呼んで来ます…」


私は班の男子が教えてくれた売店の方に向かい、キョロキョロと辺りを見渡した。



私だって尾神くんのこと少しは怖いと思ってるんどからね…

話してたってゆうけど、あんなの話した内に入るのかな?…あ。



売店の横にあるベンチに見覚えのある服を着た男子が、横になって寝ているのが見えた。

私は小走りでベンチに近づくと、その男子はやっぱり尾神くんだった。



…いた。

こんなところで寝てるし…


ここ売店だけど今日は定休日なんだ。入り口のドアにクローズって描いた札が掛けられてる…

周りに人もいないから先生も来ないし、サボるならうってつけの場所ってわけね。





「…尾神くん」


尾神くんの足もとの方から呼んでも、尾神くんは全然起きない。両手を頭の後ろに回し、片膝を立てて寝ている。


熟睡してるのかな?

よくこんなところで寝られるな…





「尾神くんって、ぅばっ!!!」


ドスっっっっっ



「っ………」


もっと近くで呼ぼうと近づいた時、足もとの石につまずいて尾神くんの上にダイブしてしまった。

尾神くんはうなるように声を出し体をビクッと動かしている。



ヤバイ!こんな起こし方って…ないよね。

殺されるかもっ!


それに男子にこんなに近付いたのなんて初めて…

なんか抱きついたみたいな形になっちゃった…こんなことされたら気持ち悪いよね…





「ご、ごめんなさいっ!」


慌てて顔を上げると、目を開けた尾神くんが私を真顔で見ている。



か、顔が近い…!

恥ずかしい…!!!



もう一度謝ったあと、尾神くんの上から降りようと体を起した時…





グイ…





え…









尾神くんに力強く腕を引っ張られ、もう片方の手は私の頭の後ろに回された。

そして頭を少し起こすと、尾神くんは
そのまま私の唇にキスをした。






な、に…………?


何が起こってるの…?






これが全ての始まり。

私のファーストキスはこんな形で奪われた。


カレーを食べたばかりで口の中はまだスパイスの香りがする…




ファーストキスは…

スパイスの味だった…
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