オオカミくんと秘密のキス
春子の教えて攻撃は、その日ずっと続いた。今日は私と凌哉くんの話ばかりしてしまい、宿題はあまり手がつけられなかった。

まあ、まだ夏休みは長いしいっか☆と4人で顔を見合わせて夕方お開きとなり、また近々集まる約束してみんなとは別れた。


私は凌哉くんにLINEをするとすぐに返事が来て、今から私のいる駅前に来てくれるらしく私は近くのカフェで待つことにした。

10分後。そわそわとしながらテラスで待っていると、息を切らせた凌哉くんがカフェに入ってくる。






「凌哉くん…」


私が控えめに呼ぶと、凌哉くんは私に気づきテラスの方に回って私のいる席に近づいて来る。

周りにいるお客さんの大半は女性で、凌哉くんのことをチラチラと見ていた。みんな凌哉くんのことをかっこいいと思っているのが、表情を見ただけでわかった。






「ごめん待った?」

「う、ううん全然っ。こっちの駅の方まで来てもらっちゃってごめんね」


凌哉くんの家からだと、こっちの駅は遠いのに…





「んなこといちいち気にすんなよ」


コツンと私のおでこを軽く叩く凌哉くんは向かいの椅子に腰掛けると、私の飲みかけの抹茶ラテをグビグビと飲んだ。

その行為にドキッとしながらも、凌哉くんに話しかける。






「何か飲む?買って来るよ」

「…」

「ん?」


私の胸の辺りをじーっと見る凌哉くんは、私が話しかけても何も言わない。





「なに?」

「…肌露出し過ぎじゃねえか?」

「え?」


露出…???


私が着ているのは、青のノースリーブのコンビネゾンで下は太ももの辺りまで短いタイプ。いつもおろしている髪を、今日はラフにまとめてトップの高い位置にお団子にし、白いシュシュをつけている。







「そんなに肌出し過ぎかな?今日は暑いから、なるべく薄着したいってことしか考えてなかったけど」

「…俺からすればそれは水着に近い」

「えっ?」


水着!?私からしたらこれは夏の普段着の感覚なんですけど…





「出るぞ」

「へ?ちょ、ちょっと待ってよ…」


急に立ち上がる凌哉くんは、そのままスタスタとカフェを出ていった。私は荷物を持って、抹茶ラテのグラスを返却口へ戻して凌哉くんを追いかける。






「凌哉くん!」


カフェの前の通りの信号で立ち止まり、凌哉くんはキョロキョロと周りを見ていた。私が小走りで近づくと、凌哉くんは私の手を自然に握る。



あ…

手を繋いでくれた…







「あそこ行くぞ」


凌哉くんが指さした先は、信号を跨いで向かいにある服屋さん。




「服買うの?」

「ああ。お前のな」

「あ、私の!?なんで?」


私がそう聞くと、凌哉くんはハァと軽いため息をついて言った。






「その上からなんか羽織れよ。じゃないと落ち着かないんだ」


そう言ったすぐ後に、信号が青に変わり私達は歩道を渡って服屋へ入った。店へ入るなり、凌哉くんは私の着ている服に合ったパーカーをさっと選び、すぐにレジに行ってそれを買って着せてくれた。





「ありがとう。あ!お金っ…」

「いらねえよ。たいした値段じゃねえし」


服屋からの帰り。凌哉くんと手を繋ぎながら、得に行き先もなく2人でぶらぶらと外を歩いていた。






「でも…」

「うるせえな。いらないって言ってるだろ」

「ありがとうございます…大切に使います…」

「はいはい」


めんどくさそうに言う凌哉くん。これ以上言うと怒りそうだから、ここは黙って甘えるのがいいのかな…

たいしたことないって言ってるけどそれなりの値段したし、やっぱり買ってもらうのは悪いと思っちゃうけど。









「ちょっと座るか」

「うん」


駅ナカのビルに入り、私達はベンチを見つけて腰を下ろす。ビルの中はクーラーが効いていて天国だ。







「かわいい」

「っ!?」


涼んで気持ちよくなっていた私に不意打ちをするように、急に頭上からそんな言葉が降ってきて驚くと共に顔を赤くしてしまう。





「髪…上げてるところ初めて見た」

「そ、そうだっけ…」

「……」

「み、見ないでよっ」


私は凌哉くんの頬を両手で掴んで、無理矢理そっぽを向かせる。クスクスと笑う凌哉くんを見て、すねたように口を尖らせてカバンからスマホを出して時間を見た。




18時か…


私のスマホには、チャイナ服を着たパンダのストラップが揺れている。今朝家を出る前に、机にしまっていたこのストラップを思い出してまたつけ直した。

これは凌哉くんとの思い出のストラップだから、もう絶対外さないよ。





「家平気なの?」


壁に寄りかかるようにして座り、足を開いてポケットに手をいれる凌哉くん。






「平気だよ!今日は洋平はお父さんの家に朝から遊びに行ってるんだ。だからご飯の心配はないの」

「そっか、なら今日はちょっと遅くなっても大丈夫?」

「うん!」


笑い合う私と凌哉くん。ああ、幸せだ…
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