オオカミくんと秘密のキス
「今日は隆也くんは家にいるの?」

「え、あーうん…」

「じゃあ今の時間は家にひとり?お母さん今日も仕事でしょ?」

「うん…そうなんだけど…」


凌哉くんの表情が、段々と変わっていくことに気づく。何か言いたそうな…何かを隠しているような…そんな顔だ。





「凌哉くん?」


疑うように顔を覗き込むと、凌哉くんは腹をくくったように口を開いた。






「…妃華が家に来てて、今は隆也のこと見ててくれてる」

「っっ!!!」


幸せモードの空気が一変する。私と凌哉くんの間に、気まずいどよーんとした空気が一気に流れた。





「へ、へえ…そうなんだ…」


普通にしているつもりなのに、顔が勝手にひきつって誰が見ても違和感のある表情。凌哉くんはそんな私を見て、本当に申し訳ないと言ったような顔をした。






「ごめん…今朝早く、妃華が急に俺んちに押しかけてきて…夏休みの間ここに泊まるって言い張ってさ」

「泊まる!?」


何何何何!?

泊まるってことは、もちろん凌哉くんの家にってことだよね!!?





「妃華は夏休みになると俺の家に遊びに来るのは毎年のことで、お決まりの行事みたいになってたんだよ。数日泊まるなんてこともたまにあってさ…今年からは断ろうと思ってた矢先一歩遅かったよ」

「そ、そうなんだ…」


家に泊まるなんて…いくら幼馴染みっていっても、年頃の男女でしょ?しかもお母さんは仕事で家を空けることが多いし…

なんにもないっていう方が変な感じしません?


だけど、ここで私がわがまま言うのは気が引けるな…

あれだけ妃華ちゃんに対して嫉妬しちゃったばっかりだし、これ以上凌哉くんに妃華ちゃんのこと言うのはちょっと…






「本当ごめんっ…あれだけ約束したのに、昨日の今日で信頼無くすようなことして…」

「そんなっ謝らないで!凌哉くんが悪いわけじゃないんだし」


悪いのは嫉妬深い私なんですから!





「なるべく早く帰ってもらうから。あっ、言っておくけど妃華とは何にもないからな?俺はあいつが家にいる間は、圭吾んちで寝ようと思ってるし」

「そんなことまでしなくてもいいよ」


本当はちょっと嫌だけど…凌哉くんのこと信じてるから大丈夫だよ。






「沙世…怒ってる?」

「怒ってないよ」


私の腰に手を回して顔を近づけ、お互いのおでこをコツンとつける凌哉くん。





「じゃあキスしていい?」

「嫌」

「やっぱり怒ってるじゃねえか」

「それは怒ってるんじゃなくて、恥ずかしいから嫌だってことっ」


しかもこんな場所でだし…エスカレーターの横の奥のベンチで目立たないところだけど、こんなところでキスなんて無理だよ…






「ちぇ。あー妃華早く帰って来れねえかな…せめて俺の誕生日までには」

「誕生日?」

「来週の俺の誕生日までは帰って欲しいな。誕生日くらいはお前とやりたいし」

「ちょ、ちょっと待って!凌哉くん来週誕生日なの!!?」


初耳なんですけどっ





「あれ?言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!来週のいつ?」

「月曜」


…3日後じゃん。






「早く言ってよ!」

「言ったつもりでいたんだけどな。何?プレゼントくれんの?」

「当たり前だよ。何が欲しい?」


良かった。これでさっきのパーカーのお礼が出来る!






「なんでもいい」

「えー困る」


私の腕を軽く引いて自分方に引き寄せ、凌哉くんは私の肩に寄りかかった。






「本当になんでもいいよ。沙世からもらったものならなんだって嬉しい」


凌哉くんは私に甘えるように寄り添い、低くて枯れたような声で言った。

少し癖のある凌哉くんの髪の毛はすごくいい匂いがして、私は気づかれないようにそっと髪にキスをした。





それはそうと…

男の子に誕生日プレゼントってなにあげればいいの?





誰か教えて下さい…
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