オオカミくんと秘密のキス
「ごめんっっ!私先に行くから2人はゆっくり来てー」

「わかった!じゃあ後で」


私は生クリームをかごに投げ入れてきな粉も雑にかごに頬り投げると、それをレジで買い慌てて学校に戻った。

あんみつ屋はさっきよりも更に混み合っていて、調理室に戻って足りない材料を補充したあと私はすぐに仕事に戻った。

春子に樹里達に会った事を話そうと思ったけど、汗を流しながらフルーツを切る春子に話しかけるスキがなく、私も忙しくてそんな余裕もなかった。


自由時間になったら言えばいいやと思い、今はとりあえず仕事に集中した…









「お疲れ様~2日間ありがとう」


午前中の係の仕事が終わると、文化祭の実行委員が料理係の私達に声をかけてきた。





「疲れたけど楽しかったよ」

「いい思い出になった~」


周りにいる同じ係の女子達が、そう言って笑顔で顔を見合わせた。

私も同じ気持ちだ。





「あー終わったね」

「長かったような短かったような…」


体を伸ばしたり肩をコキコキ鳴らしながら、待ち合わせ場所に向かう私と春子。

これから凌哉くんと柳田くんに会う約束をしている。


うちのクラスの前の廊下に、疲れきった様子の2人を発見。私達が近づくと2人は目線だけをこっちに向けるだけで、体は一切動かさない…





「お、お疲れ様」

「随分疲れてるね」


先に動いたのは柳田くんで、ふぅと息を吐いたあと口を開く。





「昨日よりも疲れた」

「本当だぜ。女のパワーってすげえな」


凌哉くんは着ている浴衣の前襟の部分をもち、パタパタと仰いだ。



昨日は紺色の浴衣を着てたのに、今日は黒っぽい浴衣を着ている凌哉くん…

どっちもよく似合ってるけど、今日の方が大人っぽい感じかな。





「つーかさ。先輩のクラスの出し物で“ベストカップル”ってやつやってるらしいぜ」


「そうそう!」と思い出したように言う凌哉くんに、私達3人は一斉に注目する。







「ベストカップル?」

「なにそれ?」


私と春子はほぼ同時に首を傾げた。





「カップルで参加できるイベントらしいよ。色んな障害物をカップルでクリアしていって、優勝すると何かもらえたりするらしいよ」


柳田くんが得意げに話して、私達に丁寧に教えてくれた。






「カップルで参加…」


そういうの苦手だな。恥ずかしいし…





「是非やろう沙世!絶対やろう!」

「えっ…」


目をキラキラさせながら、私の手を握って来る凌哉くん。


どうしたんだろ。

いつもだったらこういうイベント「くだらない」とか「興味ない」とか言って、バカにしてるタイプなのにな…






「優勝したカップルは文化祭の閉会式で、生徒達の前に出て彼氏は彼女からの公開キスがもらえるみたいだよ」

「はい?」


生徒達の前でキス!?





「その光景をプロのカメラマンが撮ってくれるんだって」



いやいや!

写真に撮ってくれるとかそういうの以前の問題だからっ!





「そうだよ沙世…俺は…」

「う…」


私に顔を近づけると、凌哉くんはニヤニヤしながら言った。







「優勝してお前からのキスが欲しいんだよ!」
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