吹き渡る青空
図書館の4F
チャイムが鳴ってから、二十分が経過した。裕也はこの図書館の四階の一室に近づいて来る足音が健のものだということが直ぐに分かった。というのも、それが毎日のことであるからであった。裕也はタバコをここで吸っていることをとやかく言われるのが嫌だったので、火を消して携帯灰皿にぐりぐりと押し付けた。ドアが開く音がする。

「裕也、謝ることあるでしょーー」

健は即座に裕也がタバコを吸っていたことを察知した。裕也は、知っているなら回りくどい言い方をするんじゃない、と内心毒づく。

「すまん。吸ったわ。」

裕也が文字通り申し訳程度に頭を垂れると、健は満足そうにうなづいた。
こいつが来るといつもろくなことが無い。裕也は何度となくそう思いつつも、自分のことを気にかけて顔を出しに来る健を追い払うことはできなかった。このどこまでもお人好しの友人を突き放すほど裕也は腐り切ってはいなかった。

「テストは順調?」

健はどうせ答えは分かっています、と言うかのような雰囲気で興味もなさそうに疑問を投げかけた。

「ここの大学の授業の単位を落とす気がしない」

裕也はそっけなく、残忍にも答えた。これを大学の学生たちが聞いたら、少なくとも何十人かが徒党を組んで革命でも起こすんじゃないだろうか。健はそう言われるのが分かっていたから、軽く微笑むに済ました。今しがたテストで何も書けなかった健はさっきの授業の単位を落とすことだろう。
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