レイアップ


「前は、あんな子じゃなかったのにねえ」

そんな声が、どこからともなく聞こえてくる。


前のおれ?今のおれのこともろくに知らないくせに。

外側だけ見て全部わかったきになるのは本当に大人たちの悪い癖だ。


そんな曇りきった目で、勝手に期待をしたり、失望したり。その凶器のような視線におれたちは、苦しんだり、ときには傷ついたり。

わかるだろうか?

おれたちは、役者じゃない。偽りの自分を演じるのにも限界がある。


だから、みんな自分だけの場所を探そうとするんだ。
誰もいないビルの屋上だったり、好きな恋人の隣だったり、あるいは薄暗い部屋のパソコンの中だったり・・・。


とにかく一息つければそれでいい。一瞬だけでもまっさらになれる。そんな場所がキミにも一つはあるはずだ。

おれにだってある。


それがここ。


< 41 / 194 >

この作品をシェア

pagetop