龍泉山の雪山猫
ごめんなさい
お母さんが突然亡くなったのは、その次の日だった。

いつもだったらわたしが朝ごはんの支度を始めると起きるのに、この日の朝は呼んでも起きなかった。

覗き込んだお母さんの顔は真っ青だった。




それからのことはうっすらとしか覚えてない。

泣き疲れた頃には、わたしはお母さんのお墓の前に座り込んでいた。ジンタの大きな手がわたしの肩を優しくさすっていた。

夕日がお母さんのお墓に影を落とす。


「サチ、もう帰ろう。今日は村長さんが家に泊めてくれるって言ってくれたから...。家に一人じゃ心細いだろ?俺の家に呼べればいいんだけど、親父がちゃんと結婚式あげてからじゃないとって...。」
「うん...。」

立ち上がって着物から埃を払い落とす。




「お、お前!」

ジンタの切迫した声を聞いて顔を上げると、そこには花束を持ったアオがいた。

「物の怪混じりが、ここへ何しに来た?」
ジンタはそう言いながらわたしを隠すように背中に回した。ジンタの背中から覗いて見えたアオは何も言わずにお母さんのお墓の前まで来て地面に膝をつくと、持っていた花束をお墓の前に置いた。
「おい!聞いてるのか?!』
ジンタの問いに応えないまま、アオは静かに立ち上がった。そして、ジンタの後ろから顔を出すわたしを見た。

「貴様に用はない。お前の後ろの者に会いに来た。」
「サチには関わるなって言っただろ!」

ジンタの言葉を無視してアオはこちらに向かってくる。アオはわたしを押しながら後ずさりする。

「さっさと村から出て行け!!」
ジンタの声が辺りに響き渡った。

「サチ、連れて行きたい所がある。俺と来い。」
アオはジンタを無視してわたしを呼びかける。そんなアオをにらむジンタはわたしが後ろにいるのを確かめながらまた数歩後ずさりした。
「こいつの話なんか聞くなよ。俺が引き止めておくから、サチは先に村長さんの家に行ってろ。」
「でも...。」
「早く行けよ!それともこいつに着いて行きたいのか?」
「...わたし...。」
わたしを見つめるアオの瞳は優しくわたしを見ていた。彼はわたしに向かって手を差し出す。


わたしは...。アオと行きたい。
< 46 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop