龍泉山の雪山猫
そう思った瞬間、着物の裾を何かに掴まれて、わたしはそっと地面に降ろされた。
顔をあげるとそこにいたのは小さな白い龍だった。白い龍は鱗もたてがみも全てが純白で、瞳だけが金色。とても気品があって綺麗な龍だった。

その龍はわたしを冷たい目で見下ろした。
助けて...くれたの?

「あ、ありがとう。」

「あなたのために助けたのではまりません。」
透き通った声が丁寧に答えた。

そして、大きな音がしてアオがわたしのすぐそばに落ちてきた。

「アオ!」
アオのそばによると、彼は意識がなく横たわっていた。そっと彼の頬に手を置く。冷たい...。だけど、息はある。
アオのお腹の方を見ると、大きな傷口が黒焦げになっていた。

どうしよう...。どうしよう。
どうしたらいいのかわからなくて涙がこみ上げてきた。


わたしは何もできずにアオの頬をなでた。



「トワ、なぜ人間を助けた?」
カナタの声がわたしの頭上で轟いた。
「こいつらに加担する気か?」

「いえ...。」
わたしの後ろにいた白い龍が答える。
「カナタ様、この二人に苦しみを与えたいのでしたら、二人を引き離しましょう。何より、アオは天界へ連れて行き、龍族の前で処分されるべきです。」

「お前は決まりにうるさくて仕方ないな。いいだろう。だが、この人間をそのまま生かすわけにはいかんな。」

そう言ったカナタを見上げると、なぜか急に眠気が襲ってきた。カナタの金色の瞳がわたしを鋭くにらんでいる...。

そして突然目の前が真っ暗になった。
何も見えない。何も聞こえない...。
意識が薄れていった。



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