巡逢~茜色の約束~
練習でも、言葉を交わすことはなくて。

事情を知っていてか、俺達の溝に触れてくるヤツは周りに1人もいなかった。





約束の日、俺はスカウトの男に向かい合い、注文した紅茶に視線を落としていた。



野球部は全寮制。

外部からのコーチも雇っていて、男の提示した話は、野球を続けていくには申し分ない内容だった。

親友の存在を思い浮かべながらも、心は揺れていた。



だってさ、四六時中野球がど真ん中にあるんだぜ?

好きなことを思いっきり出来るその環境を、簡単には捨てられなかった。



けど、何より……全寮制ってことに惹かれた。

龍堂に行けば、必然的に家を出て暮らせる。

寮に入れば、心細い夜も1人じゃない。



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