巡逢~茜色の約束~
俺と父親の関係性を大凡想像出来るようなのこの状況で、美生は何の躊躇いもなく言い切った。

怖いなんて言葉には相応しくない、凛とした声で。



「……馬鹿じゃねぇの」



言いつつ、ドアノブに手をかける。

ギィ、と音を立てて開いたドアの向こうに、俺を真っ直ぐに見つめる美生が立っていた。



「そうだよ。馬鹿だよ、私」



そう言って、美生は俺の胸に飛び込んだ。



「……馬鹿でいいから、こうさせて」



あくまでも自分の為という体で、俺の腕に顔を埋めて呟く美生。



本当は俺の為だってこと、わかってる。

力強く抱き締めてくるこの腕がその答えだろ。

俺と父親との間に何かあるとわかった上で、俺を1人にしないでくれているんだろう。

俺の泣き顔を見ないように、俺の腕に顔を埋めてるんだろう──。



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