続 音の生まれる場所(上)
初春
年が明け、カズ君と神社へ初詣に行った。二人で引いたおみくじは『凶』。ショックを受ける私に、カズ君はこう言った。

「『凶』のみくじは良いって聞いたことあるぞ」
「そぉ…?」

書いてある内容読み返す。どう見てもズタボロな事しか書いてない。

(特にこの恋愛の内容なんてヒド過ぎだし…。『波乱多し』とか、最悪…)

カズ君とどうにかなるんだろうかという嫌な予感。また一人になるのなんか、絶対にイヤだ。

「気持ち悪いから結んで帰る」

走り寄った梅の木。無数の蕾がついていた。

(そう言えば…三浦さん家の花音ちゃん、もうすぐ3歳だ…)

梅の開花便りに合わせて付けられた名前。『カノン』という曲が一番最初に頭に思い浮かんだのを覚えている。

(大きくなったろうな…)

ご自宅にお邪魔した頃はまだ7ヶ月の赤ちゃんだった。やっとお座りが出来るようになったばかりで、コロコロ太ってて可愛くて、お饅頭みたいに柔らかいほっぺをしていた。

蕾を落とさないように、丁寧におみくじを結ぶ。三浦さんが書いた記事が、今の私の居場所を作ってくれたようなもん。この縁を、いつまでも大事にしていかなくちゃ…と、心の中で考えてた。


「出来たか?帰るぞ」

歩き出すカズ君の手に掴まる。大きくてあったかい。私のことをホントに大事にしてくれる手。この手を放さずにいたいと思う反面、胸の中は不協和音を奏でる。付き合いだして半年以上経つのに、今だに彼を受け入れられないでいるのも、きっと、この居心地悪い音のせいだ。でも…

(ごめんねカズ君…私は自暴自棄になりたくないの…)

その場の雰囲気に流されて、身を任せるのだけはイヤだった。あの日、柳さんとの初めてを経験した日から、それはずっと胸に誓ってる。カズ君が相手でも同じ。自分が望まない限り、深い関係にはなりたくない…。

(我慢させてるんだろうな…)

おみくじの言葉に、不安を感じない訳じゃない。彼のことが嫌いで拒否してるわけでもない。
ただ、どこか弟みたいな気がするカズ君に、自分を任せようという気にはなれない。
納得できない気持ちが心から消えずにいて、ある意味それが、彼を受け入れられない原因になっていた…。

(クリスマスの時も結局、拒否ちゃったし…。イヤだよね…こんな私が彼女だなんて…)

処女でもないのに、勿体ぶって…と自分でも思う。でも、カズ君に触れられることを考えたら、身体が言うことを聞かなくなる。
心の奥深くで、受け入れられない理由が隠れてて、必要以上に自分の身体を固くする。

カズ君の気持ちすら、わざと考えないようにしてる。考えたらきっと、また流されてしまう…。
好きかどうかもハッキリしないうちから、それだけは…したくなかった…。
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