続 音の生まれる場所(上)
三年前、音の世界においで…と、語りかけてくれた。
この世界に朔がいると…教えてくれた。


(朔だけじゃない…音の中には…貴方もいる…)


いつだって…貴方は私の側にいた…。耳を澄ませば…いつでも聞こえる場所にいた…。
何処へも…行ってなんかいなかった…。

……ずっと、気づいてなかった…。こんな簡単なこと…すっかり見失ってた…。

自分の気持ち…。


私は…坂本さんのことが好きだ……。
他の誰よりも…ずっと…好きでいた…。


(こんな事…今…思い出すなんて…)


「……バカだな…私……」

人を傷つけて…自分も傷ついて…そうしないと、分からないなんて…。

「こうでもしないと…気づかないなんて…」


窓辺に立て掛けてあるフォトフレームに手を伸ばす。
言い出せなかった思いが込み上げる。


(…坂本さん…私…貴方のことが好きなんです……。貴方がどこへ行っても…日本に帰って来なくても…ずっと…貴方のことだけが好きだったんです…。これからも…多分、きっと……)

「ずっと…好きだから……」

写真の彼に向かって声を出した。届かない思い。でも、口には出しておきたい。これから先、決して、見失いたくないからーーー。

ぎゅっ…とフォトフレームを抱きしめた。送別会の夜、交わした手の温もりが蘇る。
私の中のホントの気持ち。やっと胸の中に戻ってきた気がしたーーー。
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