続 音の生まれる場所(上)
練習室に入る前、トイレでメイクを直した。泣いた後が見えるような顔で、あの曲を吹くのがイヤだったから。

「こんにちはー!」

元気よく入って行く。

「よぉ!」
「元気⁉︎ 」

ハルシンが声をかけてくる。

「元気元気!ところで何くれる?」

友チョコのお返しねだる。

「ちゃっかりしてんなコイツ!」
「昔からだよね」

二人が笑いながらお返しくれる。昔から変わらない二人からのお返し。

「またマシュマロかー。芸ないね。二人とも」

言った端から食べる。カズ君と同じイチゴ味。

「私のこと、よく分かってるね!イチゴ味、サイコー!」

わざと元気よく言う。今だけは、ここでだけは、泣かずに済むようにしよう。ここは音の集まる場所。涙を流すのは他でいい。


「練習始めっぞー!」

柳さんの声がかかる。皆が一斉に席に座る。チューニングが始まり、音が合っていく。
スケールの練習。半音階の練習。ロングトーン、タンキング…。
曲演奏の前の大事な基本練習。これらが全て、曲の良し悪しを作っていく…。

「じゃあ真由ちゃん、始めようか」

柳さんの声に頷く。席を立ち上がった所で、練習室のドアが開く。先生だと思って、皆が振り返った。

「あ…!」と、小さく誰かが叫んだ。空気が一瞬、し…んとするーーー。

そして…


「ただいま…」

聞いたことのある声がする。
見たことのある顔が立ってる。
瞬きするのも忘れ、驚いたまま、立ち尽くしたーーー…。
< 36 / 76 >

この作品をシェア

pagetop