続 音の生まれる場所(上)
はにかんでる顔が赤かった。すぐに声を出せなくて、ポカン…としてしまった。

「君の吹いてくれたあの曲が、僕を一番支えてくれた。嫌なことがあった時や星空を見る度に、いつも思い出した…」

送別会の時、約束してくれたこと。

『あの曲のこと、忘れないよ。君が僕を応援しているって語ってくれたことも。この星空のように日本にいてくれるってことも…』


(あれを…ホントに…)

言葉にならない分、表情に表した。ニコッと笑う彼の口から、お礼の言葉が出た。

「ありがとう。君が応援してくれたから、僕は楽器を作り上げられた…」

立ち上がると側に来て、ぎゅっと手を握りしめた。狼狽えてオロオロする私を見てる。その瞳が、とても眩しい…。


「…些細なことなのに…」

言葉を発しながら、涙が溢れそうになる。何も力になれてないと思ってたのに、そうじゃなかった。

「…私の方こそ…坂本さんのペットに支えてもらってたのに…」

信じきれなくて自暴自棄になった時、頭の中をずっと音が駆け巡ってた。バカな自分が嫌になって、思い出さないようにしようと、ずっと堪えてた。でも、カズ君と別れて、再び音を思い出した……。


「……坂本さんの音があったから…今の私がいるんです…」

生きてるんだ…と実感させられた。何もかも、坂本さんの音から生き直すチャンスをもらった。

「だから…感謝するのは私の方なんです…。…ホントに…ホントにありがとうございます…」

ぽとぽと…と涙の粒が手に落ちた。慌てて目を擦ろうとして止めが入った。

「そのままで!一枚撮るから!」
「えっ⁉︎」

カシャ…

振り向くと、三浦さんがニンマリ笑ってた。

(…そうだ…三浦さんがいたんだ…)

つい彼のことばかり見ていた。うっかり泣いてしまい、慌ててハンドタオルを取り出した。

「貸して」

坂本さんが涙を拭いてくれる。

「あの…そうされると…余計に泣けますから…」

困りながらタオルを返してもらう。笑いながら椅子に戻り、坂本さんは三浦さんにお礼を言った。

「彼女を連れて来て頂いてありがとうございました。三年分のお礼が言えて、やっと気持ちが晴れました」
「あっ…それを言うなら私もです!三浦さん、ありがとうございます!」

ここへ来れるよう編集長に説明してくれた。私の口からは、絶対に言えないことだった。

「そんなお礼を言われるようなこと、何もしてないよ」

砕けた口調で笑い飛ばす。ここに三浦さんがいてくれて良かった。いなかったら私はきっと、坂本さんに気持ちを伝えていた。
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