続 音の生まれる場所(上)
エピローグ

音の生まれる場所

定演から二週間後の日曜日、四人で朔の家に行った。お母さんは変わらない笑顔で、私達を出迎えてくれた。

「いらっしゃい、待ってたわよ」

綺麗に掃除された和屋に通される。仏壇に飾られた高二の朔と対面して、しばらく話し込んだ…。

(…久しぶりだね…)

穏やかな気持ちで語りかける。これまでも彼は、私の心の一等地にいた…。

(この間の定演でね、トップソロをしたよ…緊張して…コンクールの時の朔の気持ちがよく分かった…。それからね、朔がくれたオルゴール見つけたの。最近飾ってて、時々…聞いたりもする…)

思い出の詰まった曲。朔とも坂本さんとも共通してる。

(これからも大事にするね…それからね……)

笑ってる朔の写真を手にして、じっと眺めて仏壇に戻した。

(…坂本さんとお付き合いすることになったよ…)

話しかけながら、あの冬の夜に聞こえた声を思い出した…。


(時間かかったけど…あの時手を放して正解だったと思う……彼が…一人前になれたから…)

まだまだ、自分の工房を作るまでには至らないけど…。

(支えていくから…。だから朔も…応援してね……)

笑ってる顔に向かって微笑んだ。


『…良かったな…』

囁く朔の声が聞こえた気がして「うん…」と小さく声にしたーーー。



朔の家を出てから、四人で卒業した中学校を訪れた。

「懐かしーなぁ…」

ハルが校門に飛びつく。

「やめなってば!」

シンヤが服を引っ張る。

「変わらないねぇ。中に入れなくて残念…」

夏芽が隙間から覗き込む。

「12年か…早いね…」

あのタイムカプセルを掘り出した日と同じ、校門の花壇に座り込んだ。

「音楽室、あのままかな…」

窓を見ながらシンヤが呟く。

「防音室に書いた私のラクガキ…残ってるかな…」

鉛筆で描いたのを思い出してた。

「そういや俺、悪さばっかしてたな」

ハルが少しばかり反省した。

「あんたは今も悪さばっかでしょ!」

夏芽のツッコミに笑う。この場所から始まった私達の関係。思えばここも『音の生まれる場所』だった…。

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