お見合いに来ないフィアンセ
「いやいやいや、大丈夫だから。1回や2回や3回くらいさ。その……ダメだったとしてもよ? 美月は美月なりの魅力っつうもんがあるわけだからぁ……な? 気を落とさず。まわりをみろって。俺を含めて、男はいるわけだから」
 4時間目が終わり、昼休みのときに今野がパンをかじりながら、私に話しかけてくる。

「馬鹿じゃないの? 全然、わかってないし」と、菜々緒が冷たく言い放った。
「わかるわけねえだろ。なんも話しを聞いてないんだから。じめっとした雰囲気しか俺は味わってねえっての」

「まわりに男はたくさん、いるよねえ」と私は棒読みで繰り返すと、頬杖をついた。

「そそ。男はまわりにたくさんいるって」と今野が激しくうなずいた。

「ってことはさ。女もたくさんいるわけじゃん。あの容姿で、あの頭脳で……付き合ったことないってどういうこと? 騙されたこともないって言いきって。書類作って、合鍵わたして、完璧な笑顔でバイバイって。意味わかなんくない?」
「意味わかんないよねえ」と菜々緒が同意。

「俺、美月の言葉の意味がわからねえよ」
「そうなんだよ。意味がわからないんだよ」

 私はお弁当の卵焼きをぱくっと口の中にいれた。

「なんなんだよ、この会話! 全然、成立してねえし!」
「うるさい、今野。まじで、うざいから」と菜々緒が今野の頭を叩いた。

「じゃあ、見合いはどうなったんだよ!」
「結婚を前提に付き合うことになった」
「へえ……そりゃあ残念だったな……は? え? ああ? うまくいったんじゃん。なんで、それでじめっとしてんの?」

「なんか思い描いてた人と違ったんじゃない? 美月、小山内駿人のファンだったからねえ」
 菜々緒なりに脳内で理解した答えを、今野につたえてくれた。

「理想かあ。確かに雑誌から伺える人とは違ったなあ……」とぼそっと私は呟いた。

 天然というか。
 世間知らずっていうか。
 人を疑うことを知らないっていうか。

 お金持ちで、何不自由なくて。
 スポーツに思う存分打ち込んできたからなのかなあ。

 まわりの目とか。世間の考え方とか。
 そういうのに疎いのかなあ。

 危なっかしい人だった。
 思わず守らなきゃって思う人だった。
 そういう人って絶対、女子にモテるよねえ。

 きっといい人すぎるんだろうなあ。
 騙されてても、騙されてることに気づけないくらい。
 純粋で、優しくて。
 人を信じてる……うん、きっとそういう人なんだろうなあ。


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