お見合いに来ないフィアンセ
―駿人side-
『また新記録だって』
『すごい。駿人様!』
『今日も格好いい』
『クールで、素敵』

 大学構内から聞こえてくるヒソヒソ声に、僕はうんざりする。
 こういうの面倒くさい。
 うざい。

 いつもなら耳栓を持ってくるんだけど、すっかり忘れてきたから。
 自分がいけないのか。

「小山内くん、コレ」と僕の前に、同じゼミの女子がプレゼントのようなものを差し出してきた。
「いらない」

 僕は女子の横を通り過ぎながら、冷たく言い放つ。

「お祝いで……」
「いらない!」

 母のお気に入り女子メンバーに入ってる、なんとかさんって名前の人だったけれど。
 覚えてない。
 興味ないし。

 面倒くさい。

 歩調を早めると、女子との距離をあけた。
 
「相変わらず冷たいことで」と、大学の校舎の入り口で舘岩がニヤッと笑って声をかけてきた。
「面倒くさい」
「……だろうな。お前、女嫌いだもんなあ」

「うざい」
「はいはい。んで、土曜日のドタキャン理由は?」
「僕の知らないところで、僕の行く予定の会食があったと知ったから。そっちに向かった」
「あっそ。お前の祝賀会は別日にしようってことになったぞ」
「……面倒くさい」

「っていうと思ったが、俺が拒否るわけにはいかないからなあ」
「断っといてくれていいのに」

「自分で言え」
「そうする」

 ほら。
 僕のまわりには、僕を騙そうとする人なんて近寄ってこないんだよ、美月ちゃん。
 美月ちゃんが心配するようなことは僕のまわりでは起きないんだよ。

 僕は昨日の美月ちゃんの必死に心配している姿を思い出して、笑みがこぼれた。

―駿人side-おわり
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