ワンルームで御曹司を飼う方法

 なんだか、どうも最近変だ。

 社長が風邪をひいた頃からだろうか。ううん、もう少し前。失恋を慰めてもらった時からかもしれない。

 もう3ヶ月以上せまいワンルームで一緒に暮らしてるというのに、最近の私は今さらになって妙な意識をしてしまう。

 一緒に居ると楽しいのになんだか落ち着かなくなってしまったり。頭を撫でてもらえるとやけに嬉しかったり。それどころか自分から彼に触れてみたいなんて思う時さえある。

 そして何より……いつかは社長は私の元を出て行ってしまうんだと思うと、泣きたいほど寂しい気持ちが湧くようになった。

 すっかり情がうつってしまったんだろうか。なんだかんだで楽しいと感じているこの毎日がいつかは終わるのかと思うと切なくて仕方が無い。

 それも、離れたあと彼は私の手の届かない人となり、他の会社の令嬢と結婚をするんだと想像すると胸がギリギリと痛み出す。

 もっと一緒にずっとずっと社長と暮らしたい。けれど、今現在そばに居るとなんだか苦しくもあって。

 私は考える。もしかしてこれはいわゆる……ペットロスというものではないだろうか、と。まだ失くしてはいないけれど。

 そう考えると、一緒に居られる限られた時間に沢山の思い出を作りたいと思う気持ちは自然と湧き上がった。


「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えてチケット頂こうかな」

「どうぞどうぞ。あとで社長が庶民の遊園地にどんな衝撃を受けてたか聞かせてね」

 兵藤さんは楽しそうに笑って言うと、私の手元に改めてチケットを差し出してきた。

 隣県にある小さなテーマパークの招待券は季節ごとにデザインが変わっているようで、ファンシーなキャラクターがクリスマスツリーを囲っているイラストが描かれていた。

 それを見て私はふっと目を細める。

「そっか、もうすぐクリスマスかあ……」

 きっと小さな遊園地にもクリスマスのイルミネーションが飾られて華やいでるかもしれない。

 なんだか、胸がドキドキワクワクしてきた。小さな遊園地で社長と楽しい時間を過ごせるかもしれない、そんな想いを馳せたとある12月の昼休みだった。

 
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