ワンルームで御曹司を飼う方法

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「社長。今度の週末よかったら遊園地行きませんか?」

 兵藤さんからチケットを貰った日の夜、私は部屋でアイロンを掛けながらそう呼び掛けてみた。

「遊園地?」

 社長はかいわれ大根の水を取り替えながら不思議そうに聞き返す。いつの間にか『食べられる草』を育てる事に抵抗が無くなった彼の最近の役目だ。

「兵藤さんが招待券2枚くれたんですよ。隣の県のちっちゃいテーマパーク。すごく庶民的だから、社長きっと物凄くカルチャーショック受けますよ」

「怖いもの見たさ的な期待感は湧くな。そもそも遊園地なのに小さいってのが理解できない」

「あはは、じゃあ是非その目で確かめてください。きっといい思い出になりますよ」

 私がそう笑い掛けると、社長も屈託の無い笑顔を素直に向けてくれる。

「よし、じゃあ行くか。隣の県ならヘリで15分くらいかな。手配しとくか」

「なんで遊園地行くのにそれ以上にアクロバティックな乗り物で移動するんですか。電車とバスで行きますよ」

 庶民の移動方法に社長は不満そうに「えー」と声をあげたけど、それでも楽しそうな笑みは消えなくて。

 どんな乗り物に乗ろうか、園内で何を食べようかなんて、私たちは夜遅くまで子供みたいにはしゃぎあった。
 
 
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