ワンルームで御曹司を飼う方法
それから、私たちは新鮮な野菜や果物をいくつか購入して道の駅をあとにした。
社長はやっぱり普段と変わりない様子で「これから電車で帰るんだろ、買い過ぎじゃねーの」なんて苦笑いを零したりして。
私も変に意識しすぎないように「ふたりで持って帰るんだから、これぐらい大丈夫ですよ」と、努めていつも通りを装ったりした。
夫婦と間違われてもウンともスンとも反応しなかった社長の心の中はちっとも見えない。
けれどだからこそ、私もそれに触れてはいけないと思った。
今まで感じたことのなかった壁が、遊園地で手を振り払われた時から見えた気がして。
“いつも通り”を装わなくては……きっと私たちの日常は終わってしまう。そんな予感がした。
駅の改札を抜け、前を歩く彼の背中を見ながら思う。
こんなに側にいるのに、この背中には触れていけないんだって。目の前にいるのに、本当はとてもとても遠い背中なんだって。
恋を自覚した途端、彼とは住む世界が違うことを今さら痛感させられた。
本来なら出会うことさえなかったイレギュラーな私たちの出会い。なのに、一緒に暮らす事が許されたのは、男と女という関係には絶対になりえないから。
その絶対的ルールが破られたなら、私たちの同居生活は間違いなく終わりを迎える。
だから私はこの恋を隠し続けなくちゃいけない。絶対に。僅かな綻びさえも見せてはいけないんだ――
そんな決意を胸に秘め、唇をキュッと噛みしめた。