ワンルームで御曹司を飼う方法


 お金が多少あるとはいえ、世界中を回るのだから節約しなくてはならない。ならばということで出した答えがバックパッカーだ。

 最初は短期間の滞在から、アメリカや東欧の安全な場所を選び格安なホテルを拠点にする旅から始めた。

 元々は引っ込み思案な私。ましてや海外で行く先々の人に頼りながら旅なんか出来るのだろうかと不安もあったけれど。

『お前はやれば出来る子だよ。足を竦ませんなよ、もったいねえ』

 充がくれた自信が、私の足を前へ前へと進ませてくれた。


 勇気を持って一歩を踏み出してみれば、世界は驚くほど優しかった。

 以前、友達を作ることに怯えていたときと同じ。踏み出した先に壁なんかなくて、お互いを尊重し合えば立場や国に関係なく手を差し伸べてくれるひとは沢山いる。

 そして海外に少し慣れてきた私はいよいよ本格的なバックパッカーになった。ビザの関係で就労は出来ないものの、インターネットの普及のおかげでマッチングサイトからボランティアと代償に宿と食事を提供してくれる場所を探すことも出来る。便利な世の中で良かったと感謝せずにはいられない。

 徒歩を基本とし、ときにヒッチハイクもし、あちこちでボランティアという名のアルバイトやお手伝いをしては、充のルーツを辿る日々。

 元々お人好しな性格が幸いしたのか、つい頼まれたこと以外にもあれこれとお手伝いしたり、他のバックパッカーが困ってるのを放っておけず助けたりしているうちに、気が付くと私は『Sucker Backpacker(お人好しバックパッカー)』のあだ名と共に大勢の友人が出来ていた。

 携帯端末のメモリが重くなってしまうほどの友人との写真。別れたあとも報告しあっているバックパッカー仲間の旅の記録。お世話になった人への直筆のレターと返信。

 バックパックひとつ、ひとりぼっちで旅をしているはずなのに、いつの間にか私には抱えきれないほどの仲間と思い出が出来ており、それが次のステージへと足を進ませた。

 せっかくの出会いや思い出を記録にして残しておきたいと考えた私はブログを開設した。『Sucker Backpacker』と称し、行く先々での出来事を写真と共にエッセイ風に綴る。

 自分と、携わったひとたちのためにと思って始めたブログだったけど、世界中何処へでも飛んでいく私の行動力と、日本人らしい『お人好し気質』から生まれる出会いが面白いと注目を集め、あれよあれよと云う間に人気はうなぎ登り。驚くことにブログ会社から本として出版までされることになってしまった。 
 
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