ワンダーランドと春の雪





……いや、生き残りとかじゃないな。



あの変な日記には

この魔法の国に住んでる人は全滅したような
ニュアンスで書いてあったし、

今聞こえる足音は、魔女狩りをした側。

逆に生き残りを探してるんだ。




私はべつに魔女じゃないけど、
絶対怪しまれると思う。

もし話が通じない相手だったら、弁解の余地もなく殺されるだろう。





足音は謁見の間から聞こえてくるようだ。


私は書斎を出て
明かりを消して そこへ向かった。








「えへへ、人間の匂いがするねえ」




私が隠れている玉座の向こう側から聞こえてきた、その中性的な声が発した言葉に私は
どきっとした。



ファンタジー系の漫画とか映画で主人公が
異世界に迷い込んだとき、

今みたいなセリフを言う奴は大抵の場合、
人間じゃない。


そして、そいつはとてもグロテスクな
見た目をしてて、見つかると一気に食べられてしまうんだ。




困ったことになったな。

ここが異世界ってことは今の変な笑い方の人が言ったセリフで確信したんだけど、

どうやって元の世界に帰ればいいんだろう。




私はそっと、玉座の裏から部屋の様子をうかがった。

とにかく、人間の匂いがする発言をした
人(?)たちがどこかに行ってしまうのを待とう。




部屋の中にいるのは私を覗いて三人。


暗くてよく分からないけど、
うち二人は比較的 人間に近い姿をしていた。

年も、私と近そう。


あとの一人は何だか、とても大きい。

その大木のような腕に捕まると、瞬きもしないうちに握りつぶされそう。

そいつはさっきから、時折 低い唸り声を上げている。

唯一、怪物っぽいシルエットだ。







「フィンセント、スマイリー、二人とも
分かってるね? 魔女及び魔法使いは、
見つけ次第皆殺しやで……えへへ」





私の頬を、変な汗が流れた。

これ絶対見つかったら駄目なやつだ。




人間っぽい見た目のもう一人が言った。





「それくらい分かってるネー! Mr.サキハラ!
というかこの部屋に獲物がいるよーな
気がしマースネ!!」




あ、これまじで見つかったら駄目なやつだ。

この人たちの喋り方おかしい。




サキハラ、と呼ばれた方はまた えへへ、と
変な笑い声を出して


「フィンセントも気付いてたのか。……
いるよね、この部屋に」





あ、変な喋り方の方がフィンセントって
いうのか。

じゃあ後ろの怪物っぽい人がスマイリーかな。



……ってそんなこと考えてる場合じゃない!


思いっきりバレてた!

隠れる意味無かった!!






「えへへへ、どこにいるのかな……
愚かな野菜ちゃんは」



やばい、この人やばい。

野菜ちゃんとか言ってる。



サキハラという人(?)はぺたぺたと玉座の前を歩き回る。

裸足の足音は だんだんこっちに近付いてくる。




どうしよう。




私はもう片方の手に持っているピストルを
握り締めた。




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