ワンダーランドと春の雪




そこに描かれていたのは

炎のように真っ赤な髪をした
綺麗な女の人の絵。

女の人の目は遠くを見つめ、微かな
微笑をたたえている。



私はその絵をしばらく眺めていた。


この女の人、
綺麗だけど、どこか不気味な感じがする。

何だか、この世のものじゃないような
雰囲気。

多分、昔の有名人かな。

遊園地の創設者とか。






それから私は謁見の間を出てまた階段を上り、
書斎のような部屋にたどり着いた。

この部屋の荒れようも、言うまでもない。



本が沢山ある。


本棚も、はしごに登らないと本に届かない
くらい大きい。




本の山に囲まれるようにして置かれている
大きな机の上に、一冊の古い本が開いた状態で置いてあった。

私は引き寄せられるようにして その本を手に取り、懐中電灯の光を当てた。



ホコリをかぶっていて
息を吹きかけると、それが煙のように
宙に舞った。



文字は日本語だった。

よかった、まだここは日本らしい。



それは日記帳のようで、内容は
このお城の使用人が書いたものだった。





《三月二十九日、夜。
しばらく日記を書いていなかった。
また今日から続けていきたいと思います。
四月一日は年に一度の、
ヴァルプルギスの夜。
私は料理係だ。何を作ろうか。》

《三月三十日、霧。
最近 私たち魔女の扱いが酷い気がする。
あの悪魔たちは一体何を考えてるの?
大丈夫よね、エキドナ様が何とかして
くださるわ。とにかくお祭りの準備を
しないとね》

《三月三十一日、晴れ。
明日のお祭りは中止になった。
代わりに明日は戦いになるのかも……。
本当に許せない。何で魔法使いが
殺されるの、何もしてないのに。
多分もう日記は書けないかな。》




《四月一日。
この国はもう終わる。魔女狩りはもう
誰にも止められない。私も、妹も、
お母さんも友達も殺される。
もしこの文章を見ている人がいるなら、
書斎の机の引き出しに銃と銀の銃弾が
入ってるので、それをあなたに託します。
その銃で、魔法の国の敵を討ってね。》








……日記は そこで終わっていた。



「何これ、変なの」



私はそう呟いて、何となく机の 一番上の
引き出しを開けた。

中から出てきたのは、一丁のピストル。

映画とかで、よく海賊が持ってるような
やつだ。


まさか本当に入ってるなんて。




というか、魔法の国って何?

ヴァルプルギスの夜って何?

ここって日本の遊園地じゃないの?



このピストルは本物みたいだし……。


状況が理解出来なくなってきた。




えっと、この変な日記が言うには

ヴァルプルギスの夜?とかいうお祭りを楽しみにしてた女の子は

悪魔に殺されたってことかな、魔女狩りで。



で、その仇を討てと。

私が。



何それ怖い。

何で顔も見たことない人の仇討ちをしないと
いけないんだろう。

というか何で魔女狩りなんかしてるんだろう。


冗談だよね?




……いや、この遊園地のような場所とか
殺人現場みたいなお城の荒れ具合いを見ると、
冗談ではないのかもしれない。

本気でやばいのかもしれない。



かつては賑わっていた、
この遊園地みたいな場所……魔法の国は、
本当に何かがあって、こんな廃墟になって
しまったのだとしたら。




やばいところに来てしまった。


私は両手に持った懐中電灯とピストルを
交互に眺め、その場に立ち尽くした。






……と、そのとき。


遠くの方から数人の足音が聞こえてきた。




「……るんるるんるる〜ん♪」




誰だよこんな時に歌いながらスキップしてる奴。

ここには人はいないはず……いや、
いるのかもしれない。


この魔法の国とやらの、生き残りが。





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