ワンダーランドと春の雪
銃声が鳴り響き
黄衣ちゃんは私に手が届くギリギリの
ところで、地面に倒れ伏した。
男の子は
細い煙が立ち上る銃口を
そのまま翠くんが吹き飛んだ方向に向けた。
「痛い……もうやだ、何で僕ばっかり
こんな目に……きみのことは知ってるよ。
勿論、きみ自身のトラウマも!」
翠くんはよろよろと立ち上がって
男の子の後ろに回り、
彼の肩に触れた。
危ない、翠くんに触れられたら――!
私がそれを声に出す間も無く
男の子はピストルを持っている手を
後ろに回し
二度目の引き金を引いた。
弾は翠くんの額を貫いて
「――……っ?! た、隊長に報告だ……」
そんな言葉を残して彼もまた、
地に倒れ込んだのだった。
「……死んだの? この二人」
私が聞くと
彼は首を横に振った。
あまりに突然の出来事で体に力が入らなくなり、私はその場に座り込んでしまいそうになる。
が、彼が腕を引っ張ってくれたので、何とか
立っていられることができた。
「えっと……ありがとう」
本当、色んな意味で。
やっぱりこの人も悪魔なのかな。
「私は春花ミライっていうの。あなたは?
やっぱり人間じゃないの? 」
何かお礼がしたいと思って私が尋ねると、
男の子は黙ったまま不機嫌そうな顔をして
下を向いた。
「……喋れないの? 」
そう聞くと彼が頷いたので
私はリュックからメモ帳とボールペンを
取り出して、男の子に渡した。
「使っていいよ。……名前、何て言うの? 」
私の問いに
メモ帳とペンを受け取った彼は
早速 文字を書き始め、
それを私に見せた。
そこには尖った字で
『イズミ』
とだけ書いてあった。