ワンダーランドと春の雪
そして校長先生が指をパチンと鳴らすと、
私の周りを黄色い光がくるくると回りだした。
眩しくてしばらく目を閉じていると、目を開けていいぞという校長先生の声が聞こえたから、
言うとおりにしておそるおそる目を開ける。
そのとき近くにあった大きな鏡に映った私は
《学園》の制服を着ていた。
駅で見かけた生徒っぽい人達やマリーちゃんが着てたのと同じだ。
黒地に金のラインが入ったブレザーとスカートに、白いシャツと赤いチェックのネクタイが
すごく可愛い。
私が通う高校の制服より可愛いかもしれない。
「おお、よう似合っとるぞ! 」
校長先生は、まるで自分の孫のように私の頭を四本の手で撫でくり回す。
「可愛いですよ。気に入ってもらえて
よかったです」
と、リオン先生も無表情だけど褒めてくれる。
制服を着てこんなに褒められたのって初めて
かもしれない。
……親にも、こんなに頭を撫でられたことも
なかったな。
二人とも仕事でいつも家にいなかったし。
「では行きましょうか」
リオン先生に続いて校長室を出て、
乗り込んだのはさっきつり目くんと乗ってきたのとは違うエレベーター。
中には広間と同じ赤いじゅうたんが敷いてあって、比較的に揺れが少なく静かに下降していく。
「さっきの最上階の職員室の他に、
一階の購買部、二階と三階には学生寮、
四階から六階は校舎となっています。
ミライさんのお部屋はもう用意してあるのですが、まずはクラスの皆と仲良くなって頂きたいと思っております」
表情ひとつ変えずに淡々と教えてくれる
リオン先生に、私は「はい」とだけ返事して
窓の外に目をやった。
煙突から立ち上る煙の間をぬうように、
コウモリのような黒い羽を羽ばたかせて飛ぶ男の子が横切った。
同じ制服を着ているけど、ネクタイの色が
深緑色だ。
「……リオン先生、今通った彼は? 」
「高等部二年のウィリアムくんですね。
今最も人間を滅ぼすことに向いている悪魔と
言われている子です」
……そ、それはまた物騒な先輩だ。
「まあ彼にその気は無いらしいので
心配することはないかと」
「ずっとそのままでいてほしいんですけど?! 」
エレベーターを降りて、私たちは木で出来ているような廊下に出た。
そして、「1ーD 」と書かれたドアを開けて中に入る。
――これから、私の《学園》での生活が
始まるんだ。
私は期待と少しの不安を胸に、教室の中に
足を踏み入れたのだった。
……と思ったけど、魔法の学園ものにジャンルを変更している時間はない。
後から思えば、《学園》で暮らすのは、ほんの
少しの間だけなんだ。