ワンダーランドと春の雪





教室の床は白と黒のチェスのボードみたいな
タイルが貼られていて、教卓を前にして
生徒の机が段を作るように並んでいる。

普通に机が並んでるだけかと思ってたけど、
床に少し段差が出来ているから大学の机みたいだ。


……もう私は教室の造りが普通の高校と違ったくらいでは驚かない。


そんなものより、クラスメイトたちの方が
よっぽどおかしな姿をしていた。





顔や手足に縫い傷がある女の子。

さっき駅のホームで見かけた猫耳の男の子。

自分の首らしきものを手で抱き抱えてる男の子。
大きな鎌を担いだ女の子……などなど。



やっぱりみんな、人間じゃないんだ。



今彼らの視線は全て私に向けられていて、
色んな声が聞こえてくる。





「あの子が、さっき先生が言ってた女の子? 」


「おいしそうな匂いだ」


「真面目そうな子だね」


「まさか本当に人間だったとはなあ」




クラスメイトたちは、魔法の国で会ったゾンビ
たちのように襲ってくる気配はない。

どうしたらいいか分からず皆のことを眺めていると、後ろの方の席で笑顔で私に手を振ってくれているマリーちゃんの姿があった。


私はほっとして、マリーちゃんに手を振り返す。





「皆さんお静かに。先程もお知らせしましたが、人間の女の子を我がクラスに迎えることに
なりました。春花ミライさんです」



リオン先生が皆に紹介してくれたので、
私は小さく頭を下げた。





そして頭を上げようとしたその瞬間だった。

私の頭上を何か速いものが横切って、
黒板に突き刺さるような音が聞こえたのは。






「今 麻酔銃を撃った者はあとで職員室に来て
くださいね。学園内で武器の使用は禁止しているはずです。それと、今撃った針は人間に
刺さると即死ですからね」


「はーいごめんなさい先生! 」




……麻酔?!

即……死………?!




振り返って黒板に何かが刺さった場所を見てみると。

そこにはぽっかりと穴が空いていて、かすかに細い煙が立ち上っていた。

周りの黒板も一部どろどろと溶け始めている。


私はそれを見て身震いした。




……頭を上げていたら今頃、私の首から上は
もうこの世に無かったかもしれない。





そしてリオン先生は私にビビる隙も与えてくれず、相変わらず抑揚の無い声で私の座席の場所を教えてくれた。


先生が指差したのは一番後ろの窓際の、
マリーちゃんのとなり。





「では皆さん。もうお昼休みですので、あとは
自分たちで自己紹介なり案内なりして差し上げてくださいね。もし案内するなら、絶対に
地下の旧校舎には行かないようお願いいたします」



リオン先生はそう言って、着ている和服の袖を翻し教室を出て行った。



それに対して「はーい! 」と元気よく返事する
クラスメイトたち。

というか地下の旧校舎なんて、エレベーターに乗ってるときには教えてくれなかったのに。



それにしても、このクラス。

男女の比率が極端におかしいような気がする。



男子が沢山いるのに対して、女子がマリーちゃんを入れても七人しかいない。

駅で見かけた生徒っぽい人達も、心なしか
男の子の方が多かった。



これ全員、私と同い年なのか。

みんな大人っぽいというか、オシャレというか。

私の高校のクラスメイトたちとはかなり
オーラの違いがある。




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