ワンダーランドと春の雪




普通に挨拶しただけなのに、皆はいちいち歓声を上げる。



「すげえ! 何その謙虚な感じ?! さてはお前日本人か! 」



近くにいた猫耳の男の子がそう言うと、また歓声が上がる。




「ちょっとみんな~!ミライちゃんは私のなんだからね~! 」



そう言って私に抱きつくマリーちゃんを、
ジュリーちゃんが気持ち悪いからやめろと言って無理矢理引き剥がす。




「ちょっとマリーは黙ってなさい。話が進まないからあたしが仕切るわ! 全員揃ってないけど一人ずつ、自己紹介していきましょう、名前と種族と好き嫌いを言ってってね。あとは言いたければ一言挨拶」



「さすが委員長! じゃあ私から~」




皆が各々の席に座り、マリーちゃんだけが立っている。

私はジュリーちゃんに手招きしてもらい、自分の座席に座った。




「ローズ・マリーでっす! さっきも言ったけど
バンパイアだよ~っ。好きなものは女の子と、女の子の血と可愛いもの! 嫌いなものはお日様と可愛くないものです! 特技は射撃! よろしくね~っ」



自己紹介を終えたマリーちゃんは笑顔でウインクする。

今にもバチーン! とかいう効果音と共に星マークが飛んできそうな、完璧なウインクだった。



今度はジュリーちゃんが席を立って前に出る。




「ジュリーです。見たら分かるように、ゾンビです。好きなものは宝石とか綺麗なもの。
嫌いなものは塩キャラメル、あとミライ以外の人間。格闘技なら誰にも負けない自信があるわ。以上です」




また拍手が起こり、ジュリーちゃんが自分の席に戻る。


そんな流れでクラスメイトたちが一人ずつ、
濃厚な自己紹介をしていった。



全員の名前は覚えてないけど、印象的だった
人の自己紹介だけ書いていこうと思う。





野球帽をかぶりバットを片手に持った
バンパイアのミレアくんは、アメリカでプロ野球に入るのが夢らしい。

猫耳の男の子……化け猫のミケくんはつい最近まで日本に住んでいたことがあって、私が好きだったアニメも知っていた。

目元を包帯で隠しているヒューリィちゃんは
のっぺらぼうで、顔は無いけど優しい子で
性格美人。学校の先生になりたいとも言っていた。


今紹介した彼らのことは、今後の物語には
そんなに関わってこないから覚えなくても大丈夫だ。



その他にもいつか自分の美容室のお店を出したいとか人間界で保育士さんになりたいとか作家になりたいとか、将来の夢を話す人もいた。



皆、個性豊かで自己紹介も聞いてて楽しかったけど個性豊かな分、皆には夢があって、そのたびに私は胸が塞がるような心地がした。



やっぱりここでも今までと同じように、私は
取り残されたような気がして、皆に劣等感を感じてしまうのだった。





「最後、ミライね」



ジュリーちゃんの言葉で私ははっと我に返り、頷いてから前に出た。




「えっと、春花ミライです。人間です。
好きなものは……何だろう、寝ることかな? 」



私がそう言うと皆から笑いが起こる。

自己紹介の時に寝るのが好きなんて言うと、
大体笑いが起きる。

本当は好きなものなんて無いだけなのに。




「嫌いなものは特にないかなー、基本何でも
食べれるからね!元の世界に帰れるようになるまで、よかったら仲良くしてね」



私はまた欲しくもない笑いを取り、小さくお辞儀してから自分の席に戻った。


嫌いなものが無いなんて、嘘なんだ。

本当は嫌いなものばかり。


勉強も学校も嫌いだし、友達……リコ先輩も千香も陰で私のことを見下していそうで信用できないから嫌い。

親も先生も、成績とか将来のことで私を責めるから嫌いだ。



だけど、そんなこと言うわけにもいかないから家でも学校でも私のキャラは仕方無く、面白い不思議ちゃんポジションにあるのだった。




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