【短編】はくだく【BL】

「馨も食べろよ」

「いいよ、作ってる時に味見したし、甘いものは苦手なんだよ、知ってるでしょ?」

「ああ、毎年もらったチョコ全部俺にくれるもんな、思い出したら殴りたくなってきた」

「やだなあ、苦手なんだから仕方ないだろ」

 それに甘いもの好きな尊が、チョコレートに囲まれて嬉しそうにしてるのを見てる方が楽しい。

「苦手でも少しくらいは食べられるだろ、一緒に食べた方が美味しいぜ」

「いいってば…」

「じゃあ俺が食べさせてやるよ、口開けろ」

「えっ、いいよ、そんなの」

 尊はフォークでケーキを切り分けて僕の口の前に向けた。

「口開けろって」

「…んあ……」

 尊があーん、と言いながら僕にケーキを食べさせる。

 もう死んでしまってもいいくらい幸せだ。

「な、美味しいだろ?」

「甘すぎ…」

「俺にはちょうどいい」

「知ってるよ」

 誰のためにこんなに甘ったるくしたと思ってるんだ。

 味見してる時に気持ち悪くなったくらい甘ったるい。

「今日学校休まねえ?」

 思いついたように尊が提案する。

「え?だめだよそんなの」

「だって学校行ってもチョコ貰えないし、馨が作ったケーキ食べる方がいい」

「うーん…」

 尊の言葉で心が揺らぐ。そんな嬉しいこと軽々と言わないでよ。

「…いや、やっぱりだめ。成績に関わるし、尊が中退しなきゃいけなくなったら嫌だもん」

「お堅い頭だな」

 尊はため息をついてから学校の準備を始めた。

 ゆったりとした幸せな時間からまた慌ただしい時間に戻った。

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