届屋ぎんかの怪異譚
「いや、とんと覚えがないねぇ。気づいたら保之助さんがいないって、さがみ屋さんが慌てて探し回ってた」
「その日、何か変わったことはありませんでしたか。どんな些細なことでも構わないんですが」
「いやぁ、特にそんなことは……ああ、そういえば、車の音がやけにうるさかったな」
車、と、銀花が小さく呟く。くさま屋の主人はこくりと頷いた。
「その日はやけに車の通りが多くて、外を走っていく車の音がうるさくてね。でも、そんだけだ」
そうですか、と、朔はそれだけ言うと立ち上がった。
主人に礼を言って、二人はくさま屋を後にする。
「車で持ち去ったってことは……」
次の目的地へ向かう途上、銀花は言った。
「人の、仕業なのかしら」
「まだ車で持ち去ったと決まったわけじゃない。でもまあ、その可能性は大いにある。――次はさがみ屋の得意先を当たってみよう」
他を当たれば新しい情報も出てくるかもしれない。
そう言った朔に頷いて、銀花はまっすぐ前を向く。
よし、頑張ろう。