届屋ぎんかの怪異譚
じゃあまたね、と手を振って、銀花はかずらのあとについて歩き出した。
そのあとについて行こうとして、朔はしかし、「朔よ」と萩に呼び止められ、立ち止まって振り向いた。
「銀花が半妖であることは、知っておるようじゃのう」
朔は一度振り返り、銀花が立ち止まった朔に気付かず歩いていく後ろ姿をしばらく見つめて、また萩の方を向いた。
「それがどうした」
「わらわはもう五年も前から銀花を知っておる。出会った頃の銀花は、それはもう暗い目をしておった」
遠い目をして言う萩の見ている先、そこにある景色が、朔にも見える気がした。
すこし前の朔なら想像もできなかっただろう。――暗い目をした銀花なんて。
「人懐こいように見えて、あの娘の孤独は、おまえが思うておるより深いぞ。
人にも妖にも分け隔てないのは銀花の美徳じゃが、それは孤独の深さゆえでもある。
それをよう心に留め、銀花を守ってやってほしい」
そう言って、萩はふわりと笑った。愛おしそうに、慈しむように。
これまでの、猫のような笑みではなく、春の日差しのような暖かい笑みだった。
「わらわは外には出れぬ。銀花のそばにずっといてやることができぬ。じゃが、そなたなら」
頼む、と、囁くように言われ、朔はバツの悪そうな顔で萩から顔を背けた。