届屋ぎんかの怪異譚
「え? えっと……?」
「例えば、好意的に見れば、解剖すれば医術の進歩の足しになるかもな。
臓物の売買なんかで儲けようと思う輩がいてもおかしくはない。
ただの狂人という線もある。
あるいは体の一部を使って呪術の道具にすることもできるだろう。
――それらすべて、人の所業だ」
その言葉に、銀花の顔がみるみるこわばる。
「それって……人が、縊鬼や車の妖を使役しているってこと?」
銀花が言うと、二人は頷いた。
「目的はわからぬが、ろくなことではないじゃろう」
萩が吐き捨てるように言った、そのとき。
チリン。
高く細く、鈴の声が鳴った。
「おや」
わずかに目を丸くして萩が声を上げると、銀花は「将軍様がいらっしゃるのね」と言いながら立ち上がる。
今の鈴は将軍が訪れる合図だったのか、と察して、朔も立ち上がった。
「それじゃあ、あたしたちはもうお暇するわね。萩、ありがとう」
「なんの、礼などいらぬ。わらわの話したことは全て推測の域を出ぬ。鵜呑みにはせぬように」
「わかってる」
でも、と言って、銀花は微笑む。
「頼りにはしてるわ。いつもね」