届屋ぎんかの怪異譚
起き上がって、乱れた息を整える。
汗ばんだ背が空気に触れて、その冷たさに、すっと意識が目覚めていくのがわかる。
そして銀花は悟る。
――悪い夢を見ていたのだ、と。
やけに生々しい夢だった。
今思い出しても震えが止まらない。
おそらくは、銀花に憑いた縊鬼と同調してしまったのだろう。
「……ごめんね。すぐに助けてあげるから、もうすこし、待ってね」
静かな冷たい朝の空気に、銀花はそっとつぶやいた。
身の内に憑く、可哀想な彼女へ。
布団から這い出て、着物を着替える。
それから寝室の戸を開けて、そこにいた二人に「おはよう」と声をかけた。
「おはよう、銀花」
「……はよ」
猫目と朔がこたえた。
猫目は眠そうに目をこすっていて、そのそばには白い布団に寝かされた糺が、血の気のない顔で静かに横たわっていた。