届屋ぎんかの怪異譚
だからまぁ、萱村が水月鬼を滅ぼしたと言われているが、実際には月詠の集落を滅ぼしただけだ。
月詠の集落以外の水月鬼が、上手く隠れているだけで、もしかしたらどこかにいるかもしれない。
絶対とは言い切れないが。
ま、それは置いておいて。
山吹は怪我をして動けなくなったところを、月詠に助けられたと言っていた。
それからは月詠のところへ足繁く通って、わたしや白檀といる時間も減った。
たまにわたしや白檀といるときも月詠のことばかり話していた。
わたしも白檀も、それが微笑ましいやら寂しいやらでね。
でも白檀は、羨ましいとも思っていたんだと思う。
あの子はそのときすでに、萱村に嫁ぐことが決まっていたから。
わたしも何度か萱村秀英に会ったことがあるよ。
凛々しい面立ちだったが、それなのにどこか気の弱そうな目をしていた。
けれど気さくな方でね、わたしたち三人のお喋りに混じったことも何度もあった。
けれど、それがいけなかったんだろうね……。