届屋ぎんかの怪異譚



わたしは十五の春に江戸に帰ったその後、そのまま江戸に留まったよ。


わたしは、自慢じゃないが、その頃から退治屋としてかなりの腕利きでね。


江戸にいたって仕事の依頼は遠くからも転がり込んできたんだ。



冬になると、白檀は萱村に嫁いだ。

次期当主の秀英の妻となった白檀には気軽に会えるわけもなくて、わたしも山吹ももちろん寂しかったが、

翌年の冬に白檀が男の子を産んだとか聞いたときには、二人して泣いて喜んだもんだ。



「――その男の子が、晦だ」



そう言うと玉響は、深く息を吐いた。


そして訝しげに眉をひそめる銀花に、「そんな顔をすると思ったよ」と、悪戯小僧のような笑みを浮かべる。



「朔は、その三年前に産まれた妾の子だ。母は朔を産んですぐ亡くなって、秀英が引き取った」



「そう……だったんですか」



頷いた玉響は、ふいに切なげに顔をゆがめて、空になった湯呑みをじっと見つめる。


「それまでは幸せだったんだ」


ぽつりと、落とされた言葉は小さく、触れれば溶ける粉雪のように弱々しい。


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