君の記憶に僕は。
カラコロカラコロ


君を自転車の後ろに乗せて、紅く染まる空の下、陽炎を追いかけながら鋪道を走った。


君は時折カメラを構えて、流れていく景色を撮る。


君の肩とか、頭とか、腕とか、時々背中に触れては、その部分が熱をおびる。


身体全体が、君が好きだと叫んでる。心臓が脈打つ度、好きだと血が騒ぐ。
それがなんとも言い難いほどに気持ちがよい。



「家、この先だっけ?」


「うん、獣道通った先にある」


「自転車じゃ通れないね」


「ここでいい。ありがとう」



君は自転車を飛び降りると、「また明日」と獣道に消えていく。


名残り惜しい、まだ君の体温を感じていたかった。


西日が僕の頬を照らす。


明日も君に会っていいですか。
明日も君と話してもいいですか。
「また明日」って、そういう意味ですか。


君に聞きたかった言葉は、太陽と一緒に心の奥底に沈んでいく。


僕は君の後ろ姿が残る獣道の先を一瞥してから、ペダルに力を入れた。


カラコロと自転車が鳴いた。


カラスが帰ろうと笑った。
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