フォンダンショコラなふたり 



三年間変わらぬ風景が今年も繰り返され、昼食後外部との打ち合わせに出かけた彼が席に戻ったのは夕方。

佐倉さんの机の上は去年にもましてチョコレートの山が出来ていた。

「果梨さん、今年もお願いします」 の彼の言葉も、「了解しました」 の私の返事も同じ。

明日あさってと休みだから、チョコレートを受け取るのは月曜日かな、と業務の確認さながらに予定を考えていた私の耳に、三年間で初めての言葉が聞こえてきた。



「ティラミス、好きですよね」


「好きですけど」


「デスクの下の棚に置いときました」


「えっ?」



ことさら小さな声で言われ、どうして? と聞き返すことができなかった。

彼からティラミスをもらった、これはどう言う意味だろう。

毎年チョコレートの始末を手伝っているお礼かな。

まさか、硬派で応援団で体育会系の彼が逆チョコ?

あはは……ありえないわ。

弥生があんなこと言うから、思わず想像しちゃったじゃない。

ないない、佐倉さんに限って絶対ない、秘密の任務のお礼だ、きっと。

きっぱりと否定して、残業をするらしい佐倉さんへ 「お先に」 と声をかけた。

ありがとうございます……とティラミスの礼をそっと告げると、



「ホワイトデー、期待してます」 



またまた聞きなれない言葉が彼の口からもれてきて、えっ? と言った私の声など聞こえなかったように、佐倉さんは私に背中を向けた。

デスク下からさりげなく袋を取り、何事もなかったようにデスクから離れ、急いで更衣室に飛び込んだ。

周りを見回し、人影のないことを確認して、袋の中をそっと覗き込む。

目に入ったのは、私が贔屓にしている菓子店の包装紙とメッセージカード。

震える手で、包装紙に挟み込まれたカードを引き抜いた。



『好きです 佐倉達哉』



硬派の佐倉さんらしい、飾りのないまっすぐな言葉だった。

手書きの文字を見つめながら、だんだん頬が緩んできた。

弥生、バレンタインデーに告白してくれる人が日本の男子にもいたよ。

明日日本を立つ友人へ、思いっきり自慢しよう。

そのまえに、佐倉さんに返事をしたほうがいいのかな、それともホワイトデーに力の入ったお返しをするべき?

こんなパターン初めてだから、どうしたらいいのかわからない。

ここは逆パターンに詳しい弥生に聞こう。

手早く着替えを済ませ、バッグと大事な袋を抱えて更衣室を飛び出し、会社を出てすぐ弥生へ電話した。



『弥生、聞いて。すごいことがあったの。あのね……』



ホワイトデーには何を贈ろう。

甘くないものって……

私の頭は、早くもひと月後のイベントに向かって動き出した。


                      


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